先日、eラーニングに関するこのような調査結果が発表されました。
【大企業の人事・総務1000名に調査】eラーニングは「従業員のモチベーション維持」が課題 株式会社NTT HumanEXのプレスリリース(2025年6月12日 11時00分)【大企業の人事・総務1000名に調査】 prtimes.jp
eラーニングを導入している企業は増えていますが、実際には「行動が変わらない」「成果が出ない」「継続されない」といった悩みを抱える現場がほとんどです。
特にeラーニングの場合、その傾向は顕著です。
・動画を導入した。
・LMSを整備した。
・それでも「思ったような効果が出ない」。
そう感じたことがある方は少なくないはずです。
では、eラーニングがうまくいかないのは、ツールのせいなのでしょうか?
答えは「No」です。
多くの失敗には、“設計の欠如”という共通点があります。
本記事では、eラーニングが失敗する5つの典型パターンと、そこから抜け出すための具体的な考え方について解説していきます。
「人が動く研修」「行動変容につながる学び」を実現したい方は、ぜひ最後までご覧ください。
学習者のモチベーションの維持が難しい
皆さんも、学生の頃、学校の授業がつまらないと感じたことはあるでしょう。
それは「この勉強が何のために役立つか分からない」と、学習の理由が見えず、動機づけができなかったからです。
実はこれと同じことが、eラーニングでも起こっています。
学ぶ意味や目的が明確に伝えられていない状態では、モチベーションが続くはずがありません。
eラーニングが思うように進まない原因として、真っ先に挙げられるのが「学習者のモチベーションが続かない」という問題です。
開始直後は意欲的でも、数日で手が止まり、気づけば受講率が大きく下がっている。
これは多くの現場で共通する課題です。
なぜ、モチベーションは維持されないのでしょうか?
一つは、「そもそもなぜ学ぶのか」が本人にとって明確でないからです。
動画をただ受け身で見せられても、自分の仕事や目標とのつながりを感じられなければ、学習は他人事になってしまいます。
学習の冒頭で「この学びが何に役立つのか」「自分にどんな変化をもたらすのか」をしっかり示すだけでも、取り組む姿勢は大きく変わります。
また、「できるかもしれない」と思える設計になっていないことも原因の一つです。
最初から難易度が高すぎたり、量が多すぎたりすると、多くの人は不安やストレスを感じて脱落します。
逆に、少しずつ達成感を積み重ねられるような構成にすることで、「自分でもやれる」という感覚が芽生え、継続しやすくなります。
そして、意外と見落とされがちなのが「達成後の満足感」です。
eラーニングが終わっても、「終わっただけ」で何の手応えもなければ、次につながりません。
簡単なフィードバックや上司からの声かけ、他の受講者との交流など、「学んでよかった」と実感できる仕掛けがあるかどうかが、次の学習へのモチベーションに直結します。
つまり、モチベーションは“気合”で生まれるものではなく、学びの設計そのものに左右されるということです。
学習者が「やってみたい」「できそう」「役立ちそう」「やってよかった」と感じるようにデザインされているか。
ここが、eラーニングの成否を分ける大きな分岐点になります。
eラーニングの効果測定が困難
「ちゃんと学習したかどうかがわからない」
これは、eラーニング導入後に最も多く聞かれる悩みのひとつです。
受講完了率やログイン履歴などのデータは見られるものの、それだけで「学習効果があった」とは到底言えません。
動画を最後まで再生した=内容を理解し、現場で実践できる状態になった、とは限らないからです。
動画の後にテストを導入しているケースもありますが、それだけで本当に効果の測定になっているでしょうか?
eラーニングは受験勉強ではありません。
動画の内容を記憶し、テストに合格したとしても、その後に現場で何が変わったのかを測定しなければ、研修の目的を果たしたとは言えません。
合格することが“ゴール”になってしまっては本末転倒です。
重要なのは、「合格して何ができるようになるのか」。
つまり、学習が行動変容につながり、最終的に企業の業績やサービス品質の向上に資するかどうかが評価の軸になるべきなのです。
こうした状況を生む背景には、「何をもって“学習の成功”とするか」の基準が曖昧なことがあります。
研修の目的が曖昧なままスタートし、評価指標がないまま「なんとなくやって終わる」。
これでは、研修の効果を証明することも、改善することもできません。
重要なのは、事前に「どんな行動変容を期待するか」を明確に設計することです。
そしてその変化を、定量・定性的に測る方法をあらかじめ準備しておく必要があります。
たとえば、
- 研修前後のチェックリストで行動の変化を見る
- 上司や同僚からの観察フィードバックを活用する
- 自己評価やレポート課題で思考の深まりを可視化する
こうした仕組みを講じることで、eラーニングは「ただやるもの」から「確実に成果を出す教育」へと進化します。
さらに、eラーニングは自動化できる魔法のツールと思っている人も少なくありません。
確かに、対面研修と比較して、自動化しやすく、個別の進捗管理も可能になります。
ですが、だからと言って、管理者が何もしなくて良いわけではありません。
eラーニングこそ、学習者(社員)の理解度に応じた個別のサポートが必要です。
誰かが「つまずいている」ことに気づくのはシステムではなく人間です。
そのためには、チューターやメンターのような学習を伴走する存在が欠かせません。
効率化は手段であって、学習成立は目的。
eラーニングが効果を発揮するかどうかは、その両立にかかっています。
業務との両立ができない
eラーニングが続かない理由の一つに、「受講の時間が取れない」という声があります。
これは多くの職場で見られる現実です。特に忙しい現場では、学習の優先順位がどうしても下がってしまいがちです。
「業務の合間にやっておいて」と言われた研修は、いつの間にか後回しにされ、受講期限ギリギリになって焦って視聴だけ済ませる。
そんな光景は、eラーニング導入初期の企業や組織ではよくある話です。
確かにeラーニングには、好きな時間に受講できるという柔軟性があります。
しかしその柔軟さゆえに、「いつでもできる」は「いつまでもやらない」に変わりやすいのです。
ここで必要になるのが、「計画」と「環境」の設計です。
単に「学んでおいてください」と丸投げするのではなく、
・業務の中でどこに学習時間を確保するか
・チームや上司が学習状況をどう支援・管理するか
・学習が現場業務とどう結びついているか
といった設計をあらかじめ行っておく必要があります。
また、組織として「学びは業務の一部である」という文化を浸透させることも重要です。
eラーニングが“空き時間の作業”や“片手間の業務”という位置づけのままでは、決して根付きません。
さらに、学習者が自ら学習を管理し、主体的に進められるようになるには、肯定的な学習環境(PLE:Personal Learning Environment)の整備も欠かせません。
安心して学べる雰囲気、学びを歓迎する文化、サポートを受けられる体制。
こうした環境が整ってはじめて、学習者は自己主導的に行動できるようになります。
つまり、eラーニングを成功させるためには、
個人のモチベーションだけでなく、組織の学習設計・運用設計そのものを見直すことが不可欠なのです。
フィードバックがない
多くのeラーニングは「見て終わり」「受けて終わり」になりがちです。
学習者が何を感じたのか、どこでつまずいたのか、どこまで理解できたのかなど、
そうした情報が講師や管理者に届かないまま、研修が進行してしまうのです。
このように一方通行のまま放置される学習体験は、成長を実感しにくく、学習者のエンゲージメントも続きません。
そもそも、人は「できた」という実感や、誰かからの反応を通して、自分の成長に気づき、次の行動へのモチベーションを得るものです。
対面研修では当たり前に存在した「講師とのやりとり」や「ちょっとした声かけ」が、eラーニングでは失われているケースが非常に多いのです。
特に成人学習では、フィードバックがなければ学習意欲そのものが低下しやすいという特徴があります。
「この方向で合っているのか」「どこを直せばよいのか」という確認がない状態では、不安が残り、自己評価も難しくなります。
このため、eラーニングにおいても、メンターやインストラクターの存在が不可欠です。
レポートや小テストの提出を求める場合でも、そこに対して適切な反応やコメントがなければ、学習者は“出しただけ”という感覚になってしまいます。
これでは振り返りも深まらず、理解が不十分なまま終わってしまうリスクがあります。
たとえば:
- レポートに対して簡単でも講師からコメントを返す
- 回答に応じて「なぜそうなるのか」の補足解説を提示する
- 自動採点の小テストでも「誤答時の解説」や「参考資料へのリンク」を設ける
といった工夫があるだけで、学びは一方通行ではなく“対話”になります。
また、受講者同士のコメントや、コミュニティでのやりとりの中でも学びは深まります。
人との関係の中で学ぶことは、学習の継続と内省に大きく影響します。
eラーニングが失敗する多くのケースでは、こうしたメンターやインストラクター、支援体制が存在しないことが大きな要因のひとつです。
学びを孤独にしないために、反応が返ってくる仕組みを設計することこそ、学習効果を高める鍵となるのです。
eラーニングの内容が実践的ではない
eラーニングの中には、「とりあえず動画を作った」「とにかく知識を詰め込んだ」だけの教材も少なくありません。
しかし、ただ情報を伝えるだけでは、学習者の行動は変わりません。
とくに社会人教育において重要なのは、「知っている」から「できる」へ、そして「使いこなす」段階に到達させることです。
言い換えれば、知識をインプットするだけでなく、それを実務の中でどう活かすかまで考え抜かれた設計が求められます。
実際、「知ってはいるが、現場では使えない」「一応見たけど、どう応用すればよいか分からない」という声は、知識偏重型のeラーニングにありがちな結果です。
これは、特に汎用的なパッケージ教材を導入しているケースで顕著です。
確かにコンプライアンスやビジネスマナーといった基本研修は必要かもしれません。
しかし、他社のパッケージをそのまま導入し、あとは学習者に“丸投げ”するような運用では、確実に失敗します。
成人学習においては、「これは自分に関係ある」と感じられなければ、効果的な学習は成立しません。
大人は、自らの経験をもとに学びを構築する存在です。
つまり、何かを経験する → 振り返る → 教訓を引き出す → 新たな状況に活かすという「経験学習モデル」を通じて理解を深めていきます。
そのため、教材が現場の業務と関係のない抽象的な内容だったり、受講者自身の課題感と結びつかない内容だったりすると、学びの意味を感じられずに終わってしまいます。
重要なのは、学習者の置かれた環境や役割、業務の文脈に即した教材であること。
そのためには、単なる座学ではなく、以下のような設計が必要です:
- ケーススタディ:現場でよくある場面や課題を取り上げ、思考を促す
- シナリオベース演習:実際の業務を想定した選択肢や判断を求める設問
- 自己内省や業務への転用を促す問いかけ
- ディスカッションやレポートなどアウトプットを伴うタスク
このように、受講者が「自分ごと」として捉え、行動に落とし込める仕掛けがあってこそ、学習は実践知に変わっていきます。
また、教材の中に「実践のヒント」や「明日から使える知識」が含まれていれば、受講者の興味や集中力は格段に上がります。
逆に、それがなければ「知識が増えただけで終わり」という印象になりやすく、せっかくのeラーニングが現場に浸透しません。
私たちが設計支援を行う中でも、「これは明日から現場で使える!」という感覚を持てる教材かどうかは、効果の分かれ道になります。
成果を生むeラーニングとは、単に知識を伝えるものではなく、現場での変化を促す“実践のための設計”がされている教材です。
成功するeラーニングの共通点とは?
ここまで、eラーニングが失敗する主な理由を見てきました。
- 学習の動機づけが弱く、モチベーションが続かない
- テストや完了率だけで“効果”と見なしてしまう
- 業務との両立を想定せず、学習が継続できない
- フィードバックやサポート体制がなく、孤独な学習になる
- 内容が実践と結びつかず、学習後の行動変容が起こらない
これらに共通するのは、「学習者を中心に設計されていない」という点です。
つまり、eラーニングが“受けさせる側の都合”で作られていると、必ず失敗するのです。
では、成功するeラーニングはどう設計されているのでしょうか?
それは、受講者の経験や業務の文脈に合った設計がされており、
「なぜ学ぶのか」「何に役立つのか」が明確に伝わる構成になっているものです。
また、単なる知識のインプットにとどまらず、アウトプットや内省、
周囲との対話を通して「行動変容」が起こる仕組みが丁寧に組み込まれています。
そしてもう一つ大事なのは、“伴走”の視点です。
設計したら終わりではなく、実施後の反応や成果を見ながら、
より効果的な形へとアップデートし続ける運用体制が欠かせません。
「eラーニング教育を設計する」パートナーとして
私たちFAST LINKは、システム導入といった“手段”にとどまらず、
「どうすれば学びが成立し、行動が変わるのか」を徹底的に考え、設計・構築・伴走まで支援しています。
本質的な成果につながるeラーニングを実現するには、学習設計に精通した専門家の存在が欠かせません。
eラーニングが広く普及しているアメリカなどでは、コンサルティングベンダーの活用が一般的ですが、
日本ではいまだその存在が知られておらず、数もごくわずかです。
だからこそ、私たちFAST LINKのような「eラーニング設計の専門家」が必要なのです。
「動画を見せるだけの教育」から、「行動が変わる学び」へ。
貴社の研修や教育活動を一段階進化させたい方は、まずはお気軽にご相談ください。